成田空港から日本を出たのは、夏休みも終わりを告げる8月31日のことだった。ロンドン・ヒースロー空港で乗り継いで、ドイツのフランクフルトに飛行機が到着したのは夜だった。空港からはバスでハイデルベルクに直行し、『クイーンズ・ホテル・ハイデルベルク』に着いたのは夜中の12時近くになっていた。

■2度の戦争で破壊されたハイデルベルク城

ハイデルベルグの町並み 翌日の9月1日の朝、眠い目をこすりながら、朝食のレストランにむかった。日本人の団体客が3組も泊まっていたらしく、レストランは、早起きの日本人ですでに満員になっていた。ベーコン、ハム、スクランブルエッグがおいしい。イチゴミルクはとても甘かった。

 8時15分にバスでホテルを出発し、ハイデルベルクの街にむかった。観光のスタートは、古城街道沿いにあるハイデルベルク城を訪ねる。クノーレさんという女性の現地ガイドが同行する。神戸生まれの日本人で、現地の人と結婚したそうだ。

 9時にハイデルベルク城に到着する。17世紀の2度の戦争でルイ14世によって壊滅的に破壊されたハイデルベルク城は、破壊される前は堂々たる城だったが、今はあちこちに城の残骸が残っているだけだ。しかし、全体的には、中世の古城の雰囲気がただよう情緒あふれる観光地となっていて、世界から多くの観光客が訪れている。この日も日本から来た団体客の姿が多く見られ、それぞれのツアーごとに現地ガイドがついて、さまざまなやり方で細かく解説をしていた。

教会で結婚式   城跡を活用した結婚式場があるようで、私たちが訪れたときにはちょうど結婚式が開かれていて、純白のウェディングドレスを着た花嫁が可愛らしかった。新郎新婦に一言ことわって、写真をとらせてもらった。

 城内には直径7メートル、長さ8.5メートル、容量22万リットルという世界一大きなワイン樽を収めた「大樽棟」があって、蓄えられたワインは城の中の人々の喉を潤したそうだ。実際見るとその圧倒的な大きさに驚いた。

■復元されたローテンブルクの街

ベッカー川沿いの美しい風景 ひと通り城内の建物を巡ったあと、ハイデルベルク城を後にして、再びバスに乗り込んでローテンブルクまでむかう。短い間だったが、ハイデルベルクのガイドが専門のクノーレさんとはここでお別れだ。ローテンブルクまでは約185㎞の道のりになる。窓外はところどころ中世の城らしき建物とともに、自然が豊かな田園の風景がひろがっていた。

 ベッカー川沿いは保養地になっているそうで、キャンピングカーが目立った。保養用のクアハウスもあり、認められれば6週間の滞在費用が国から保険で賄われるという、まことにうらやましい話を聞く。

ローテンブルクの中心街で 3時間ほど経ってローテンブルクの街に入る。到着すると昼食時になっており、レストランに入り、ソーセージなどバイエルン地方の郷土料理をおいしくいただいた。昼食後はローテンブルク市内を現地のガイドさんに案内してもらう。

  古い建物がならぶローテンブルクの街は、中世からつづいてきた城壁都市の歴史を感じさせるとても美しい街だった。ユネスコの世界遺産に登録されもよさそうなものだが、実は登録されておらず、今後ともその予定はないのだという。それにはこんな理由があった。

■第2次世界大戦で街の8割が消失

ローテンブルクの町並み

 第2次世界大戦では、独裁者ヒットラーが率いるナチスが日本と同じように侵略戦争をつづけ、それを阻止しようとしたアメリカやイギリスなどの連合国に敗れる。そして、これも日本と同じように、空襲で主要な都市は徹底的に破壊された。

   ローテンブルクも例外ではなく、街全体の8割が損失するという壊滅的な被害にあった。敗戦をむかえ、市民たちは新しい街を復興させるのではなく、中世からつづいてきた古い街並みをそのまま復元するために、徹底的に昔と変わらないように建物を建てなおしたのだった。その結果が、今のローテンブルクの街を形作ったのだ。

ローテンブルクの中心街 したがって、ローテンブルクは「復元された遺産」でしかなく、ユネスコの世界遺産としてはふさわしくないとされ、いまだに認定されずにきている。同じような例がポーランドのワルシャワにあり、こちらは逆にドイツ・ナチスに侵略されて破壊されたが、戦後、ローテンブルクと同じようにもとどおりに復元された。そして、市民たちの努力が高く評価され、例外的に世界遺産に指定されることとなった。えこひいきのようにも見えるが、ひょっとしてユネスコは、ナチスを嫌っているのかもしれない。

 とは言え、ローテンブルク自体が、世界遺産を希望していないようだし、将来もおそらくこのままだろうという話だ。しかし、きわめて正確に復元された街並みは、とても印象深いものだった。

マルクト広場の市庁舎 そんな話を聞きながら街を一回りした後、自由時間になった。街の中心部のマルクト広場にある市庁舎には、15分くらいでのぼれる展望台があって、何人かはそこに行ったようだが、私たちはいろいろな店をめぐり、ちょっとしたおみやげになるような小物を探した。クリスマス用品を専門に売っている店があり、ペアになったコーヒーカップを買い求めた。

■商魂たくましいミュンヘンのビアホール

 あっという間にローテンブルク城壁内の散策は時間になり、とても美しい街だったので名残惜しかったが、バスに乗り込んでミュンヘンへと移動する。ビールで世界に名の知れた都市で、昔オリンピックが開催されたことあり、だれでも知っている都市だ。約200キロの道のりをひたすらバスで走る。窓外には中世の街並みや牧歌的な風景が広がっていて、たいくつしなかった。

ミュンヘン近郊の田園風景 やがてバスは、人口140万人、ドイツ第3の大都市ミュンヘンに滑り込んだ。市内をぐるりと一回りしたあと、ホテルにむかった。部屋で一息ついたあと、夕食は、当然のようにみんなでビアホールに出かけた。ドイツでは「ショッキンケラー」と呼ばれる巨大なビアホールには、たくさんの観光客でにぎわっていて、わたしたちのツアー一行は、大きなテーブルに一列にならんで向い合い、日本の大ジョッキよりも一回り大きなジョッキで乾杯となった。

 ドイツ名物のいろいろな種類のソーセージは、地元のビールによく合ってとても美味しく、飲み放題のジョッキがすすんだ。キャベツを酢漬けしたザワークラウトも、ここで食べると格別に美味しかった。  食事の途中、ドイツ人のカメラマンがテーブルをまわり、それぞれのペアをならべて写真を撮っていった。その写真は、食事が終わるまでに手早く現像され、写真をキーホルダーに入れて出口のテーブルに並べられていた。

自然とこぼれる笑顔 私たち二人がジョッキを持って仲良くならんでいる写真もキーホルダーに収められ、1つ1,000円で売られていた。支払いは日本円で構わないのだという。同じキーホルダーが2つならべて置いてあったが、記念にはなっても少々高い気もしたので、千円札を1枚出して1つだけいただくことにしたのだった。

たっぷり本場のビールを堪能し、美味しい料理もたらふく食べて、みんなビール腹になってビアホールをあとにした。ホテルに戻り、夜はどこにも行かずに明日にそなえた。

■おとぎの国のようなノイシュバンシュタイン城

さわやかな朝の風景 ツアー2日目は、早朝の5時半に起床して、7時半にホテルを出発する。早めにミュンヘンを出発したのは、480キロも離れたインターラーケンに夜には到着する必要があるのと、この日のメインの観光となるノイシュバンシュタイン城を、少しでも早い時間に訪れたかったからだ。ノイシュバンシュタイン城は、日本語に直訳すると白鳥城と言われ、ルードヴィッヒ2世が19世紀後半に建てた城だ。

 ノイシュバンシュタイン城は、ディズニーのシンデレラに出てくる城のモデルになっている。夢のお城のモデルと言うだけあって、白く輝くように華麗な城だ。城主のルードヴィッヒ2世は、城の完成を見ずに1886年6月に謎の死を遂げた。それ以降、城の工事は中止され、未完成のまま現在にいたっている。

ノイシュバンシュタイン城をバックに 城内は一部を観光客に開放され、有料で回れる見学コースがある。日本人の団体に合わせて、録音された日本語のガイドもスピーカーから流れてくる。ただ、どうもドイツ人が原稿を読んでいるようで、日本語のアクセントがどこかおかしい。

 かつて「メルヘン王」とも呼ばれたルードヴィッヒ2世は、その名の通り夢の国を追い求めたそうで、その集大成とも言えるノイシュバンシュタイン城は、惜しむことなく贅が尽くされていた。

 ルードヴィッヒが座っていた「玉座の間」は、息を呑むほど豪華絢爛に装飾が施されていた。ただ、ぽっかりと空いた王座も未完成のままで、ついに主がここに座ることはなかったのは悲しい。

■高速道路を飛ばしてインターラーケンに到着

ノイシュバンシュタイン城の塔 歴史上は華やかな存在だったルードヴィッヒ2世は、一方では孤高の王でもあり、「狂王」の異名があるように言動も怪奇に満ちていた。わずか40歳で謎の死を遂げたのも、彼の最期としてはふさわしいかもしれない。

 一部とはいえ、広大な城内をじっくりと見学を終えたあと城を出た。帰り道では、ノイシュバンシュタイン城が丸ごとバックに映る橋の上で、二人ならんだ記念写真を添乗員さんに撮ってもらったが、残念ながら私たちの体が城を隠してしまった。そのことは現像してからわかったので、仕方ない。撮ってもらった添乗員さんに文句を言える筋合いではない。

 城を出てからもバスの旅はつづいた。無料の高速道路であるアウトバーンをひたすらインターラーケンへと走る。途中、昼食を食べ、何度か休憩を入れながら、夕方になってインターラーケンの街にようやく着いた。

スイスに来た!という感じ   今日はノイシュバンシュタイン城以外は、観光といえる観光もなく、ヨーロッパ旅行では人気のあるロマンチック街道も、この辺りは見るところはないのだろう。

 そのままホテルに直行し、翌朝の段取りを聞いて部屋に入って一息ついたあと、ツアー一行で街のレストランに出かけた。夕食はチーズフォンデュをいただく。スイスに来た以上、名物のチーズフォンデュを食べない訳にはいかない。はじめてだったが、チーズとワインが合ってとても美味しく、ワインがすすみ、スイスでの一夜を楽しく過ごすことができた。

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